今回のテーマは「私の小さな宇宙の中で」。私の小さな宇宙を9つに分けてみました。 空、音、海、夜、陽、軌道、風、涙、砂というふうに。
折にふれて感じたこと、考えたこと、思ったこと、寂しかったこと。そんな断片の数々を作品にし、言葉にしてみたのです。ですから、言葉もちぎれちぎれの断章です。しかしありがたいことに、私の仕事には、色も、音も、光も、動きも添えられます。 感謝しています。と同時に、何と孤独な仕事だろうとも思うのです。 しかし、これは贅沢と言えるのでしょう。
当然、仕事というものは孤独なものなのですから。私も満足し、仕事にいそしむのです。
花のおしゃべり――風の景
キュ キュ キュ 花のおしゃべり
8文半の顔
扁平な地球は とび起きる
ガス管がある 水道線が走る
沿っていくと まっすぐなのはなぜ?
空のかなたは 虹
二つの湖に浮かんだ一つの虹
私の言葉――音の景
言葉にすると消えてしまう
山、海、鳥、涙……
たましいのないものに化石する
それで私は世界の物音ばかりを聴いていた
笑う猫の目 蒼い魚の尾
おしゃべりするナベの音
樹の話 透明な空の響きを
インクのしみ――風の景
風っぽいお話の一つ
インクになって
しみになって
「吹いているのは だれ?」
石の花――音の景
ある日、石の家をでて
黄水仙の涙を見つけた
それで、カラカラとこぼれて
太陽は 緑にそまった
「私の小さな宇宙の中で」
7月29日/帝国ホテル
構成/秦 砂丘子
演出/秦 砂丘子、高樋洋子
美術/柳沢まち夫
音楽/松田良雄
ナレーター/金内吉男
ヘア・メイクアップ/宮崎定夫
5年ぶりにヨーロッパに出かけました。そして2ヶ月ばかりフランスの各地を回ってきました。
その印象を「フランス紀行」と名づけてまとめてみました。 私が特に好きだったところ、プロヴァンスとブルターニュを二つの主題としました。
金色の太陽と咲き乱れる花々、赤いレンガの屋根、白壁、銀色のオリーヴの木々、緑の海を持つプロヴァンスの地は、陽気で激しい香りに満ちていました。
それと対照的だったのがブルターニュの村々です。灰色の海と険しい岩。スティール色の屋根とオレンジの煙突、家々の二重窓、曇った空。黒と白のブチの乳牛、豚、鶏。点々と散在する村々にそびえる中世の教会。黒い衣装のおばあさんたち。詩的で、寂しい味わいでした。
こうした二つの地方の村々の屋根や壁に残された物語が、めまぐるしい20世紀に住む私に、こよない夢を与えてくれたのです。 1968年9月
「フランス紀行」
9月3日/大阪:厚生年金会館
9月7日/東京:ホテルオークラ
構成/秦 砂丘子
演出/秦 砂丘子、高樋洋子
音楽/結城 久
言葉/秦 砂丘子
ナレーター/金内吉男
ヘア・メイクアップ/宮崎定夫、伊藤五郎
詩の世界にいると安らげた。子どもの頃から親しんだ世界だったから。しかし詩は、文字で表現するだけのものではないと気がついたとき、初めて色と形を選ぶことができた。 私のコレクションの出発点は、まずそこからである。
「詩人との対話」
7月29日/ホテルオークラ
構成・演出/秦 砂丘子
音楽/石川 昌
ナレーター/高山 栄
ヘア・メイクアップ/宮崎定夫、伊藤五郎
織物は、縦糸と横糸がぶつかって生まれる面状のものをいう。ではニットは、と考えたとき、それは点かあるいは線から生まれるものだと私は思っている。点状のものなら何でも、編みつなぐとニットになる。海の石、ゼムクリップ、安全ピン、IC回路なども素材の一つ。
昔、日本の武士は、皮や鉄の小片を皮ひもでとじつけた鎧を着た。中世の騎士は甲冑の下に、細い針金を編んだ下着を着る。伸縮性があって機能的、まあ現在のニット・ジャージイと呼ぶべきか。
出発点が点か線か面なのかを別にこだわる必要はないけれど、単位が小さいほど、立体化の仕事はおもしろい。可能性がやや広がるし、少しは自由でもいられると思う。
(春夏)「創り上げた色」
4月12日/ホテル高輪
構成・演出/秦 砂丘子
音楽/乾 宣夫
ナレーター/飯田紀美夫
ヘア・メイクアップ/資生堂
帽子製作/並木伸好
(秋冬)「フィ・フィ・ルック―少年っぽい女の子のために―」
9月28日/ホテル高輪
構成・演出/秦 砂丘子
音楽/吉村英世
ナレーター/矢島正明
ヘア・メイクアップ/資生堂
帽子製作/並木伸好